わかりにくい紛らわしい表現とは

わかりにくい紛らわしい表現とは

2022年4月18日

わかりにくい紛らわしい表現とは

マニュアルは、製品を正しく使ってもらうために、ユーザーに理解されやすく、正確な説明が求められる。
にもかかわらずマニュアルに対する印象は、「説明が長い」「説明がわかりにくい」「専門用語が多い」といった意見が多いのは事実だろう。

わかりにくいマニュアルの要因

冒頭の意見が多い主な要因は、マニュアル制作時に参考にする仕様書だ。
仕様書は、開発する製品(工業製品、家電製品、ソフトウェア、システム、サービスなど)の機能や性能、動作条件、操作方法など、製品開発に必要な要件をまとめたものであり、機能仕様書や操作仕様書、画面仕様書などがある。マニュアルを制作するときは、これらの仕様書をもとに、ユーザーが必要とする情報を抜粋して記載していく。

ただし、仕様書はハードウェアやソフトウェアを製品化する技術者を対象にしており、ユーザーが操作することは考慮されていない。そのため、開発者同士で通じる専門用語や、英語読みをカタカナにしただけの用語が多い。また、説明文も「当該仕様にのっとり・・」「準拠するものとする」「処理を実行する」など、技術文書特有の表現が多い。
これらの仕様書の表記をそのままマニュアルに記載すれば、「説明が長い」「説明がわかりにくい」「専門用語が多い」、わかりにくいマニュアルになってしまう。

わかりやすいマニュアルのポイント

仕様書の表記をいかにわかりやすくリライトし、対象ユーザーに合わせた説明にしていくかが「わかりやすいマニュアル」のカギとなる。
リライトするときに心がけることは、以下の5つである。
①あいまいな表現をしない
②簡潔な文章にする
③文法を意識した文章にする
④短く表現する
⑤表現を統一する

このポイントを意識してリライトすれば、わかりやすいマニュアルになる。では、どうリライトすればいいのか、事例をもとに説明する。

※ 「表現を統一する」は、『マニュアル制作に必要なこと』で、表記を統一するために必要な資料について説明しているので、ここでは割愛する。

あいまいな表現をしない

あいまいな表現とは、読み手によって異なる解釈をされる文章や、1度読んだだけでは理解できず何度も読み返しが必要な文章のことだ。では、どういった文章があいまいな表現となるのか、どう修正すればいいのか事例をもとに説明する。

【例1】セットアップにはAまたはBとCが必要です。

上記の文章は、一見問題ないように見えるが、読み取りかたでセットアップに必要な組み合わせが2通り考えられる。1つ目は「A」または「BとC」、2つ目は「AまたはB」と「C」である。どちらの組み合わせが正しいかを仕様書で確認し、必要な組み合わせを明確にした文章に修正する。

①「A」または「BとC」の場合:セットアップにはAのみ、またはBとCが必要です。
②「AまたはB」と「C」の場合:セットアップにはAとC、またはBとCが必要です。

① 「のみ」と表記することで、Aは単体であることを強調できる。
② CはAまたはBのどちらにも必要なので、「AとC」または「BとC」とすることで、必要となる2つの組み合わせが明確になる。このように、セットアップに必要なものを羅列するときには、組み合わせを明確にするように心がけるべきだ。

【例2】[シフト]を押し、[OK]を押します。

上記の文章は、[シフト]と[OK]を押すタイミングがあいまいな表現になっている。
[シフト]と[OK]を同時に押すのか、[シフト]を押したあとに[OK]を押すのかあいまいだ。

仕様書では、「+」記号で前後のボタンを表記している場合が多いが、この表記をマニュアルでどう表現するのか、記載ルールを決めて表記していく必要がある。
実際の操作を確認し、押すタイミングが明確になる表記に修正する。

[シフト][OK]を同時に押す場合:[シフト]を押しながら、[OK]を押します。
[シフト]を押したあとに[OK]を押す場合:[シフト]を押したあと、[OK]を押します。

①「[シフト]と[OK]を同時に押します。」も間違いではないが、「同時に」は「時間差なく押す」と解釈され、余計なプレッシャーをユーザーに与えるので、時間差に許容範囲がある場合は「押しながら」を推奨する。
②「[シフト]を押してから」も考えられるが、「押してから」では押したあと離すのか、押したままなのか不明確なので、「[シフト]を押したあと」とすることで、押す順序を明確にできる。

【例3】AをONにしないと、Bは表示されません。

上記の文章は、仕様的に間違いではないが二重否定文となっており、結論がわかりにくく誤解を与えやすい表現になっている。 二重否定文は、裏を返せば肯定文に修正できる。
また、「・・しない」「・・されない」などの否定文は、製品に対するマイナスイメージが強くなるので、同じ意味なら肯定文で説明すべきだ。

①Aを肯定にした場合:AをONにすると、Bが表示されます。
②Bを主体にした場合:Bを表示するには、AをONにします。

① Aを肯定することで、Bも肯定した文章になり、説明などに使用できる文章となる。
② 「・・するには」など、Bを主語にした文章にすることで、目的が明確になり、概要での機能説明などに使用できる文章となる。

簡潔な文章にする

重複表現や重ね言葉(意味が重複している言葉)がある文章は、説明が冗長になり、何度も読み返さないと理解できない説明になりがちである。丁寧に説明しているつもりでも、1文の中に同じ名称が複数回表記されたり、同じ意味の用語が重複していると、わかりにくい文章になる。不要な用語を省略することで、説明が簡潔な表記になる。

【例1】このフィーダーは、自動で両面を読み取るためのフィーダーです。

上記の文章では「フィーダー」が重複表記となっており、冗長な言い回しになっている。
「フィーダー」は、どちらか一方を削除しても意味が通じる文章になる。修正方法は前半を残した場合と、後半を残した場合の2通りが考えられる。

①前半「フィーダー」を残す場合:このフィーダーは自動で両面を読み取れます。
②後半「フィーダー」を残す場合:これは自動で両面を読み取るフィーダーです。

①前半の「フィーダー」を残すと、機能説明の文章となる。また「読み取るためのものです」と表記するケースもあるが、「ためのもの」はなくても意味が通じるので不要だ。
②後半の「フィーダー」を残すと、イラストなどの説明文となる。また「読み取るためのフィーダー」と表記するケースもあるが、「ための」はなくても意味が通じるので不要だ。

【例2】A:まず最初に、電源を入れます。
    B:各フォルダーごとに、ファイルを保存します。

上記の文章は、よく見かける重ね言葉(同じ意味の言葉が重なっている)である。
「まず」と「最初」、「各」と「ごと」は同じ意味でよく使われているが、1文に重ねて表記すると間違った文章になる。どちらか一方を使用することで、違和感のない文章になる。

A:「最初」を使用する場合:最初に、電源を入れます。(はじめに、電源を入れます。)
B:①「各」を使用する場合:各フォルダーに、ファイルを保存します。
  ②「ごと」を使用する場合:フォルダーごとに、ファイルを保存します。

A:この文章は、「電源を入れる」操作なので「最初」を使用することをお勧めする。「最初」はセットアップなどの操作全体の先頭という意味があるので、電源を入れる操作には「最初」を使用する。「まず」は、各操作説明の先頭で使用できる。
B:「各」と「ごと」は、どちらを使用しても問題ない。どちらを使用するのか、表記ルールで明確にしておく必要がある。

その他にも、「一番最初」「一番最後」「被害を被る」「過半数を超える」「返事を返す」「必ず必要」「加工を加える」なども重複表現となるため、使用を避けたい表記だ。

【例3】A:仕様上では問題はありません。操作的なミスが原因になります。
    B:コピーを行います / 初期化の処理を行います
    C:キーボードを使用する方法もあります。

上記の3つの文章には、省略できる表記が含まれている。余分な表記を削除することで、すっきりした表記になる。

A:「上」「的」は不要:仕様は問題ありません。操作ミスが原因になります。
B:「行います」は不要:コピーします / 初期化します
C:「する方法」は不要:キーボードも使用できます。

A:「上」「的」は、この説明になくても意味が通じるので不要だ。また、「仕様には」「仕様に問題は」「仕様では」なども考えられるが、これらの表記は仕様以外にも確認が必要なときに使用すべきだ。仕様だけの確認でよければ「仕様は」を使用する。
B:「行います」は、この説明になくても意味が通じるので不要だ。また、「することができます」「処理を実行します」なども、なくても意味が通じるので不要である。
C:「する方法」は、この説明になくても意味が通じるので不要だ。また、「することも」なども、なくても意味が通じるので不要である。

文法を意識した文章にする

日本語は、文法を理解して記載することが肝心だ。特に、主語と述語があっていないとわかりにくい文章になってしまう。
また、修飾語を使用する場合は、記載位置で文章はわかりやすくも、わかりにくくもなる。では、どういった文章が文法的におかしいのか、どう修正するのか事例をもとに説明する。

【例1】担当者が、お客様からのお問い合わせに対して回答します。

上記の文章は、主語の「担当者」と、述語の「回答します」の間に、説明文が入っているため、結論がわかりにくくになっている。この場合、主語と述語を近づけることで結論が明確になる。

主語と述語を近づける:お客様からのお問い合わせには、担当者が回答します。

「お問い合わせに対して」と表記するケースもあるが、「対して」は、なくても意味が通じるので不要だ。また、「お問い合わせに、」など「は」がない表記もあるが、何に対して回答するのか明確にするためには、「は」を入れることをお勧めする。

【例2】パソコンの優れた点は、処理が速い以外に、記憶容量の大きさがあげられます。

上記の文章は、主語と述語があっていない。そのため、パソコンの優れた点を説明しているのか、優れたパソコンの条件を説明しているのかあいまいになっている。
あいまいな点を明確にするため、「パソコンの優れた点」または「優れたパソコンの条件」を主語にして説明すると、主語に対する結論が明確になる。

①パソコンの優位性を説明:パソコンの優れた点は、処理の速さと記憶容量の大きさです。
②優れたパソコンの条件を説明:優れたパソコンには、速い処理能力と、大きな記憶容量が装備されています。

①「パソコンの優れた点は」を主語にした場合は、「XXとXXです」と優れた点を併記すれば、主語と述語があう。また、「以外に」などは、省略することで要点が明確になる。
②「優れたパソコン(に)は」を主語にした場合、述語「XXです」にすると表記があっていない。そこで優れた条件を名詞にし「装備されています」にすると、主語と述語があった文章になる。

【例3】SDカードはゲームの途中結果を保存し、保存時点から再開するための記録を保持します

上記の文章は、SDカードの2つの機能が1文で説明されている。そのうえ、修飾語が長いため、結論がわかりにくくなっている。この場合は、「SDカードに保存できる内容」と「保存時点から再開できること」を2文に分けて説明すると、わかりやすくなる。

2文に分けて説明:
SDカードには、ゲームの途中結果を保存できます。また、保存した時点からゲームを再開する記録も保持しています。

2文目先頭を「また」にすることで2文が同等の機能であることを明示できる。また、「SDカードは・・保存できます」でもいいように見えるが、これは主語と述語があっていない。「SDカードは小さいです」などSDカード自体の説明なら主語と述語はあっているが、SDカードの機能を説明する場合は「SDカードには」を使用することで、主語と述語があうことになる。

短く表現する

冗長な文章は、要点がぼやけ、わかりにくさにつながる。マニュアルの説明は、適切な文の長さ(45文字以内)で記載することを心がけるべきだ。
また、1文の中に複数の条件を羅列して記載している場合は、各条件を箇条書きにすることで、要点がわかりやすくなる。
では、どういった文章が冗長で、どうすれば簡潔に表現できるか事例をもとに説明する。

【例1】電話をかけるときは、相手の電話番号をダイヤルボタンで押したあと、[通話]を押します。

上記の文章を操作説明で記載するときに、どこまで重複した表記を削除できるかが課題だ。 ユーザーには、極力短い文章にすることで分かりやすい説明になる。

①意味が通じる範囲で文言を削除:電話番号を押したあと、[通話]を押します。

①まず、操作説明では見出しなどで機能説明が前提となっているので、「電話をかけるときは」は不要だ。ただし、他機能で参考事項として記載する場合は、残しておくべき表記だ。
次に、「電話番号」に対して「相手の」も当たり前なので不要だ。その他にも「ダイヤルボタン」は「電話番号を押す」で通じるので不要である。

【例2】割り込みコピーで設定できる機能は、定型変倍と用紙選択、濃度と画質です。

上記の文章は、該当する機能や条件などが複数ある場合の説明だ。1文の中で複数の機能や条件を羅列するよりも、箇条書きで説明したほうがわかりやすくなる。

箇条書きに修正:
 割り込みコピーで設定できる機能は、次の4つです。
 - 定型変倍
 - 用紙選択
 - 濃度
 - 画質

①まず、先頭行で箇条書きに羅列している機能や条件を説明する。このとき、羅列する数を明記すると親切だ。箇条書きの先頭には、[全角中黒「・」]、[半角スペース+半角中黒]、[半角スペース+半角ハイフン]などがあるが、マニュアル内で統一されていれば、どれを使っても問題はない。最近は、英訳を考え、英語表記に合わせた[半角スペース+半角ハイフン]が増えている。

【例3】メモリーカードは、サイズが小さく軽いので持ち運びに便利ですが、HDに比べると記録容量が少なくなり、動画などの大きなデータの保存には適していません。

上記の文章は、メモリーカードの便利な点と不便な点が1文で記載されている。また、接続詞に「で」「が」「なり」を多用しているため長文となり、便利な点と不便な点が何かわかりにくくなっている。この場合は、メモリーカードの便利な点と不便な点を2文に分けて説明することで、結論が明確になる。

便利な点と不便な点に分けて説明:メモリーカードは、小さく軽いので持ち運びに便利です。ただし、HDに比べ記録容量が少なく、大きなデータの保存に適していません。

①2文目先頭は「ただし」ではなく「しかし」を使用するケースも考えられるが、「しかし」は逆説の接続詞で、前文とは逆の結果になる文を接続するときに使用する。例えば、「メモリーカードは小さく軽いので持ち運びに便利です。しかし、なくしやすいのが欠点です。」なら問題ない。この事例では、前文の利点に対して「適していない」としているので、逆説にはなっていない。この場合は、前文を補足し一定の制限または例外がある場合に使用する接続詞「ただし」を使用すると、違和感のないわかりやすい文章となる。

そのほかにも、マニュアルを制作するときには、表記を統一するために執筆規約や記載ルール、用語基準書などが必要になる。ただし、執筆規約や基準書、用語集は、どの製品にも共通するものはなく、製品ごとにユーザーに合わせて作成し、状況に応じて変更していく必要がある。


ソーバルでは、長年、大手メーカーのマニュアル制作に携わり、あらゆるマニュアルの制作実績を積んでいます。 この経験を活かして執筆規約や記載ルールに基づいたマニュアル制作をしています。お客様の要望に応えたプレゼン資料を作成してお届けしますので、ソーバルまでお気軽にご相談ください。